令和6年能登半島地震で被災された皆さま、関係者の皆さまに心からお見舞い申し上げます。一日も早く心身の平穏を取り戻せることをお祈りしております。
また被災地以外の皆さまも、今回の大災害のニュースに胸を痛めていらっしゃることと思います。
私に何かできることはないかと考え、この記事を書きました。
災害に限らず、人生の中で経験するショッキングな出来事の後にも、同じような心のプロセスが生じるので、参考にしていただければ幸いです。
災害後に誰にでも起きうる、心の状態の変化
下の図は、災害が発生した後に心の状態がどのように変化していくかを表したグラフです。
災害発生直後は、大きなショックを受け、「茫然自失期」になります。
その後の「ハネムーン期」というネーミングは不思議な感じがするかもしれませんが「皆で力を合わせて頑張ろう」という前向きな気運が生じる時期です。
それから、グラフは右下がりになり「幻滅期」に入ります。
現実生活は落ち着いてマシになったのに、逆に無力感、疲労感、罪悪感、抑うつ気分など、心はつらい状態になりやすいです。
そして、人によって個人差はありますが、年月とともにだんだんと「再建期」を迎え、心が安定した状態で過ごせるようになっていきます。
心の変化の流れを知っておく意義
このように、一般的な心の変化の流れを見通すことができると、自分が今どの段階にいるのかがわかり、冷静かつ客観的に受け止められるようになると考えられます。
特に「幻滅期」の最中には、とてもつらくなる方が多いと思われます。
「自分より大変な境遇の人も、みんな頑張っている。それなのに、こんなこともできない自分はダメな人間だ」などと、自分を責めてしまうおそれがあります。
やる気が出ない、人に会いたくない、時間をムダに過ごしてしまう、イライラする・・・など、ネガティブな心の状態に対して、
「自分が弱いせいでは」
「自分が異常なのではないか」
「このままおかしくなるのでは」
と不安を抱くかもしれません。
けれど、このような心の状態になることは、「異常な事態」に対する「正常」な反応なのです。
どうか自分を責めずに、「異常な事態を経験して頑張っていた証拠なのだ」と、自分をねぎらい、いたわってあげて欲しいと思います。
心の変化は、自律神経の反応の一環
上で説明したような心の変化はなぜ起こるのか、自律神経の視点で考えると理解しやすいです。
「茫然自失期」には、余りのショックで凍りつき状態になり、動けなくなります。副交感神経が体と心に急ブレーキをかけて、痛みや衝撃を感じにくくして何とか生き残れるようにしていると言えるでしょう。
「ハネムーン期」には、交感神経系がアクセルの働きをし、火事場の馬鹿力を発揮できるように臨戦態勢を作っていると考えられます。アドレナリンやノルアドレナリンなどが体や脳にあふれ、パワフルに危機状況に立ち向かうことができるのです。
そのようなイケイケ状態を永遠に続けることは不可能です。自分の身体の中の限りあるエネルギーを、一気に使い果たせば燃料切れになるからです。
そして、いずれ「幻滅期」が訪れます。副交感神経によるブレーキがかかり、だるく、意欲が湧かず、活動しづらい状態になると考えられます。
自律神経を3つに分けて説明する新理論についての記事もご参照ください。
「幻滅期」を乗り切るポイント
最もつらい時期を乗り切るコツを、昔から言い伝えられてきた慣用句が教えてくれています。
「明けない夜はない」
「冬来たりなば春遠からじ」
そのように考えて、今は「夜」や「冬」の時期なのだから活動すべき時ではないと割り切り、頑張ることを最低限に抑えましょう。
そして、睡眠中、冬眠中のように省エネモードでやり過ごし、24時間以上前のことも後のことも考えず、ただその日を生き延びていくようにします。
充電中のスマホを使ってしまうとなかなかチャージが完了しないのと同じなので、今は充電中と割り切って、できるだけ自分を休ませましょう。
そうすると、自分の中に、溶けた氷水が一滴ずつ落ちるように、少しずつ元気が溜まっていきます。
このように、自分の中の回復力が働くよう促していると、またいつか、春の生き物のように動き出せる日がやって来ることでしょう。
心と体の変化は、自然な反応。楽になれるようなケアを。
災害や事故など、大き過ぎる衝撃を受けると、自分が保てなくなってしまうのではと不安になるものです。
実際に、「集中できない」「やる気が起きない」など、自分の心の状態がいつもと違うと「なんとか元に戻さなければ」と焦ってしまうかもしれません。
けれど、心が一見ネガティブな状態になることも、身を守るシステムの一部として自然に起きている場合がほとんどです。
あなたは決して「だめ」でも「おかしい」わけでもありません。
自然治癒力が働きやすくなるセルフケアを心がけると、回復が促進されるでしょう。
例えば、下のようなことは効果的です。
- 体を温める
- マッサージをする
- 軽い運動で体をほぐす
- 気楽に過ごせることをする
- 声を出す
- 笑う
- 信頼できる人と共に過ごす
なんでもいいので、自分が「いい気分」でいる時間を持つようにすることで、自然な回復力の働きを促進できるでしょう。
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出典
災害時ハンドブック 東京臨床心理士会 第7期災害・犯罪等専門委員会 2011年
三重県 災害時の心のケア資料 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000891983.pdf